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2023.02.12特集 FABRIC 『 BAHAMA に思い馳せて 』
今回は、当店にストックする現物生地の中から、WAIN SHIELL(英)の名品「 BAHAMA 」について特集。
ウェイン・シールは英国の歴史上において、最初のマーチャント(生地商社)のひとつとされている、老舗の生地ブランド。80・90年代の隆盛は凄まじく、その軌跡を紐解きつつ、ご紹介のボディの素晴らしさをお届けします。
1807年 ロンドンのサヴィル・ロウに本店を構え「 洗練された英国らしさ 」をコンセプトに掲げた服地づくり
TAILOR SECOND HOUSE 中野です。
私の業界キャリアは2001年からでして、バブル時期はまだ学生でしたが、当時の様子を資料やお取引先様から伺っており、ウェインシールと言えば高級舶来生地の印象が強く刻まれております。
当時、百貨店の舶来生地コーナーではドーメルやゼニアなどと並び、服地代(お仕立て代別)が15万円や20万円といった値札で展示されており、打ち込みがしっかりとした重量感のあるボディや、モヘアを混紡した光沢の美しい織り出しが得意なメーカー。
伝統的な英国様式を踏まえつつ、ロンドンを颯爽と歩くビジネスマンの世界観を打ち出すブランド展開がされていました。
こんな話を師事した先生からも聞かせて頂いたり、当時の在庫生地に残る値札を見る機会も沢山ありました。
その後は、DCブランドの流行や、量産の既製品に押される格好でマーケットから姿を消えていきます。
復活は2010年代の前半に、スキャバルグループ傘下のブランドとして登場します。
この辺りには、特にスキャバル・ジャパンが抱える事業戦略が密接に関わっており、端的に言えば「 GAP と BANANA REPUBLIC 」の関係と同じ座組みで、高価格帯のスキャバルに対し、その一つ下の商材を確保したい意図が含まれていました。
ウェインシールがかつて保有した高級舶来生地のブランド力を活用し、スキャバルグループのスケールメリットを駆使することで価格帯を再設計。そしてもう一つ、リブランディングする上で重要な戦略がありました。
それは国内で展開するウェインシール全ての在庫を “国内でストックする” リスクをスキャバル・ジャパンが負う本腰を入れた取り扱いです。これによりデリバリーのコストを大幅に圧縮し、中価格帯かつ高品質というポジションを狙ったわけです。
長々と綴ってしまいましたが、ご紹介のブランドにはこんな背景があります。
残念ながら現在、日本へのデリバリーが休止しており、国内展開は流通在庫のみとなります。
今回の特集では、BAHAMA にフォーカスしておりますが、その他ボディ(ペットネーム:MISTRAL・COLORU STORY)も店内で多数ストックしておりますので、ご来店の際はぜひ現物の美しさをご確認頂けますと幸いです。
WAIN SHIELL BAHAMA の良さとは
大きく3つのポイントを挙げられます。
① 確かな物性とコストパフォーマンス
個人的には、服地の良し悪しはお酒と一緒だと感じています。
高ければ美味しい訳ではなく、安いお酒でも美味しい物はある。
また歴史やマーケットのポジションなど、世間の評価軸と個人の嗜好性のバランス感に、お酒と服地の類似性を感じてなりません。
このような観点で、WAIN SHIELL「 BAHAMA 」は、趣味性や物性と価格のバランスに優れた逸品です。
② 8マンス(ヶ月間)着用可能
ペットネームが “バハマ” ですから、まぁ夏物に特化と思いますよね。
織り出しは春夏特有の平織ですが、目付(生地の重さ)が秋冬と変わらない、280/m ウェイト。これは、平織の通気性や肌離れを保ちながらも、3PLYヤーンならでは糸の太さとむっちりとした織り上がりによって、日本の気候風土では真冬を除く季節にも着回せる物性です。且つ、非常に丈夫で撥水やストレッチなどのおまけ付き。
当然、前提としては週3回以上の着用のご法度や、見た目においては合服である点をお忘れなく。
③ 職人好みの仕立て映えの良さ
これは販売員目線ではなく、特にビスポーク領域に身を置く職人としての意見です。
洋裁技術に対して非常に相性の良い生地だと、これまでの経験で感じております。針通りがよく、3PLYにしては裁ち切りの断面に糸抜けが起き難く、丁寧に打ち込み、織り上げている結果だと思います。
またアイロンワークのコテ効きも良く、水分に対する反応や暴れが少ないので、イセやクセ取りといったテクニックも比較的に表現しやすく◎。
よって工場縫製の量産のオーダー品でも、一定の仕立て上がりになりやすいと思います。
以上を踏まえ、当店では「 BAHAMA 」を好いております。
ただし、同ブランドに限った話ではありませんが、WAIN SHIELL だからと言って何でもかんでも評価している訳ではありません。良いものには、理由をもって良いと言えるよう、引き続き精進して参ります。
当店がストックする「 BAHAMA 」のラインナップ
WAIN SHIELL(英)
Pet name BAHAMA
Wool(3PLY) 100%
Weight 280〜290g / m
NATURAL STRETCH & NANOFINISH
Special Price ¥80,300 → ¥68,200 in tax
※ 2023年2月12日 時点ストック状況
WAIN SHIELL / BAHAMA を使用したお仕立て上がり
BAHAMA / NAVY SUIT
Product Line BESPOKE
WAIN SHIELL が打ち出した、春夏向けのスーツ生地の傑作といえば “BAHAMA”。
織りは甘めで通気性が良く、強撚の縦横双糸の組成はシワの回復性にも優れています。高温多湿の日本ですから、ドライタッチであることも重要なポイントです。
仕様は極々ベーシックなネイビースーツ。
ただ設計に基づく縫製の部分では、目に見えない要素が満載です。
パット、ユキワタに関しては柔らかく、尚且つ反発力を持たせる設計を。
芯作りは表地の組成を鑑みながら、お客様の要望を加味して台芯、増し芯の硬軟のチョイスを変えます。
フェルトのある無しもお好みに応じて。
今回は表地の甘めの織りを考慮して、透けないようにダーツテープまでオールブラックで統一しました。
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BAHAMA / GRENCHECK SUIT
Product Line MTM – H
今回はWAIN SHIELLの BAHAMA を使ったスーツをご紹介。
縦横双糸の強撚、通気性と回復性を併せ持つ、当店でも春夏生地のベストセラーです。
ミディアムグレーのグレンチェックは、少しかすれた様な柄出しがポイント。
打ち込みも甘い分、清涼感を醸し出してくれています。
仕様はハッキングポケットにフラップは少し丸みを持たせて。ゴージラインもほんのりカーブする様に設計です。
これらのディテールは、型紙を店内アトリエにて設計する MTM – H だからこそ可能になりました。
ボディのみならず、ポケットの形もビスポークさながら型紙を起こし、お客様の理想に一歩でも近づけます。
曲線のポイントを随所に使用することで、柔らかな印象のスーツのお仕立てになりました。
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今回は昔を振り返りながら特集をまとめてみましたが、お楽しみ頂けましたでしょうか。
実は私も1着、自分用に生地をストックしております。
平たく言えば “生地オタク” ですので、いつか仕立てる用の生地が交通渋滞している訳でして、たまーにリリースしながら、物欲をアップデートしている次第です。
皆様にとって本記事がご参考になることを願っております。
引き続きご笑覧の程、宜しくお願い申し上げます。