JOURNAL

2024.09.24つづら日記 | 10月10日を前に職業を振り返ると…

先日、クリーニング業界の同世代の職人さんと、久しぶりに雑談する機会がありました。

その方の前職が、トヨタにお勤めというのも初耳だったのですが、職域が車の “生産ライン設計” とのことで、キャリアの多様性に驚きです。

私の肌感ですが、中々お会いする機会のない、マニアックな領域ですよね。
当然、品質・生産効率を含む工数管理が重要ミッションになるわけですから、この点でも親和性を感じます。

そこで、伝わるか不安でしたが
「 ROI (Return On Investment:投資収益率)も業務に含まれるのですか?」と聞いてみました。

ステレオタイプな色眼鏡

そうしますと、とてもびっくりした顔で「部署は違いますが、関わりますよ」と答えてくれました。

工数管理について理解していること。
アパレルらしからぬ英語3文字が飛び出したことに、驚きだったようで

「なんで、ROI を知ってるのですか?」と質問が返ってきました。


「小さい会社ですが、一応、、製造業の社長なので 笑」
と返しますと、お互いに人を見た目で判断してはいけないよね。なんて空気になり更に仲が深まる結果となりました。


私は、高卒でアパレル販売員からキャリアをスタートし、以降どっぷりメンズドレスでしたので、それ以外の業界の標準や常識を理解できていないのが本音。

“トヨタ” だからなのか、 “生産ライン設計” だからなのか、こういうビジネス用語を当たり前に使って職務に取り組んでいることに、とても刺激を受けた次第です。


その後も、「 センチュリーなどの車種は、通常の生産ラインとは違うと思うのですが、”マニュファクチュール” みたいな概念や言葉は使ったりするのですか?」と聞いてみますと

「 僕はレクサスの部門を担当していたので、使ってましたよ!」と嬉しそうな表情で、その時のエピソードを教えて頂きました。


いやぁ、クリーニングの職人さんが前職、レクサスのライン設計とは驚きです!
長くお仕事をご一緒してきましたが、人に歴史ありだと改めて感じます。

井の中の蛙大海を知らず、されど空の深さを知る

話し変わりますが、
先日、有難いことに職人を目指す30代前半の方が相談にいらしゃって頂きました。

現在は、とあるテーラー店の私塾でテーラリングを勉強中とのこと。
前職は、建材業界で営業をされており、既に退社し人生を賭ける熱意をお持ちの素敵な男性で、テーラー店で就職先を探されている状況でした。


当店HPのリクルートのページをご覧頂き、事前にメールにて問い合わせのご連絡頂いた経緯があり、

私からは「まずは、テーラーの職業に興味を持って頂き、いち業界人として嬉しく思います。面接という体ではなくお気軽にお越し下さい」とご返信を差し上げました。

その方の理想は、洋裁を職域に職人として働くことでしたが、まだ洋裁を始めて半年とのこと。



私からは、雇用という面では学校ではないので当然ながら、労働生産性は企業にとって重要です。
ですので、職人の領域で就職口を探すのであれば、”スーツを仕立てたことがある” だけでは駄目で、美しさは勿論のこと、スピードも重要になります。

当店は洋裁未経験の方も歓迎しておりますが、まずは職人以外の領域で “どのようなバリュー” を提示して頂けるのか。
私はこれを重要視していますとお伝えしました。

どんな企業であれ、働くということは、何かしらのバリューをお示しする必要があります。
スモールビジネスのテーラー業でも、世間の企業様と同じように、社内には多岐に渡る業務があります。

ある種、ベンチャー企業と同じように必然的に一人ひとりが担当する職域が広くなりますので、テーラードに興味があることは前提として、様々なスキルセット・人材を必要とします。

特に前職がある方は、既に社会人経験があるわけですので、そのスキルを “どう応用出来るのか” をお話し頂けますと、狭き門はきっと開くと私は思います。


未経験の中で職人を目指すのであれば、まずは “ご自身が持つバリュー” を提示しテーラー業に関わることが重要だと感じます。当然ながら業務時間は、その職務に取り組みながら、寝る間を惜しみ洋裁の練習をする必要があります。

しかし身近に洋裁の環境があることは、とても貴重ではないかと思います。


更に独立を見据えるならば、ビジネスとしての側面も勉強する必要があります。
ROI は大切ですが、テーラーの事業規模では重要指標ではなく、それよりかは ROE や ROA などの単語や概念に向き合ってみるのは為になると感じます。

まぁ、実際のところは知っておくと解像度が上がる程度なのですが 笑

財務会計と管理会計を出来る限り紐づけて、タスクや時間を圧縮し、お客様事や洋裁に向き合う時間を生み出す。これが私の教訓です。


当店は10月10日で10周年を迎えます。
これからも続きますが、少し振り返りますと、沢山の学びと課題に直面しました。


直近では、有名テーラー店からパンツの職人が高齢化で来月ご納品分から生産のリソースがなく困っているなどのお声もあります。

テーラーだけでなく、オーダースーツ業界でも、縫製工場の閉鎖や企業の合併は非常に多く、消費者の関心とは裏腹に様々な問題が浮き彫りになってきております。

ですので、少しでもテーラーという職業・職人が増えて欲しいと感じており、雑記させて頂きます。

TAILOR SECOND HOUSE 中野俊

ラジオ番組『 Bespokemaker presents 屋根裏談義に腕が鳴る!』




FABRICS

情報が整い次第、掲載致しますので、お待ち下さい。